創世記

4章

1、2節 カインとアベル

 

She conceived and bore Cain, saying, "I have gotten a man with the help of the LORD."
And again, she bore his brother Abel. (Gen 4:1-2)

 

「カインを産み」

エバの言葉からもわかるように、カインは「得る、所有する」(カーナー)という意味です。

 

Cassutoという学者は、「私は主と同じように、男子を作った」という意味であると解釈しました。

エバは主によってカインを産んだことを告白しますが、同時に自分が得たことを強調しているようにも見えます。

 

「男子を」(isshu):普通、青年男子に使い、子供には使わない言葉です。ここでエバがこのように言ったのは、創世記2章23節の、アダムのことばに対応していると思われます。

それは、男(isshu)から、女(issha)が造られたように、女のエバから男(isshu)が生まれたことを、ここでは意識して語っているようです。

 

「アベルを産んだ」

「アベル」の意味は、伝道者の書の「空」と同じことばです。「霧」「息」という意味があります。アベルに関しては、エバは何も語っていません。アベルの命がこの後すぐに失われることを、この名前は示しているように思われます。

 

アベルは羊を飼うものとなり、カインは土を耕す者となりました。カインはおそらく長男として、父アダムの仕事を受け継いだのでしょう。

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3,4節 主へのささげ物

 

Cain brought to the LORD an offering of the fruit of the ground,
and Abel also brought of the firstborn of his flock and of their fat portions. And the LORD had regard for Abel and his offering, (Gen 4:3-4)

 

「ささげ物」(ミンハー)

ミンハーは、ささげ物を現す一般的なことばでしたが、後に、特に穀物をささげ物としてささげる場合に使われるようになります(レビ記2章)。

 

カインは、地の作物を主にささげ、アベルは、羊を主にささげました。

その結果、主はアベルとそのささげ物に目を留め、カインとそのささげ物には目を留めませんでした。

何故、アベルのささげ物は受け入れられ、カインのものは受け入れられなかったのでしょうか。

地の作物よりも、羊の方がよかったという、種類の問題ではなく、神はささげる人の心を見られました。

 

ささげ物は、感謝の応答としてささげるものでした。その応答として、アベルは、羊の中で、最もよいもの、初子の最上のものをささげた、とあります。すべては神が造られたものですから、最も良いものをささげるのは、当然でした。そのようなアベルとそのささげ物を、神は受け入れました。

それに対して、カインのささげ物は、初物でもなく、最も良いものだとも書かれていません。それは、形だけ、見せかけだけのささげもの・礼拝だったと思われます。そのようなカインと、そのささげ物を、神は受け入れませんでした。

 

この後、カインは、アベルが受け入れられ、自分が受け入れられなかったことに、ひどく腹をたてて、顔を伏せたとあります。

その原因が、自分にあることを認めずに、他にその怒りを向けました。ここにもアダムとエバに見られた、自分の問題を見ようとせず、他に見ようとする性質を見ることができます。

「私に出会う者」 カインを殺す者は誰か?

カインは「私に出会う者はだれでも、私を殺すでしょう」と自分が追放された後のことを語っています。この時点では、カインの他に、その父母であるアダムとエバしか人間は存在しません。その父母を指すと考えられなくもありませんが、この「私に出会う者」というのはこれから生まれるカインの兄弟だと思われます。これはカインの妻は誰かという問と同じですが、5章4節にあるように、アダムとエバは、神の祝福のもとに、カイン・アベル・セツの他に、多くの子供たちを産んだと思われます。いずれにしても、自分の弟アベルを殺したカインはここで、自分の弟、あるいは、妹に殺される、と嘆いていることがわかります。

4章概略: カイン、弟アベルを殺し、エデンの東に追放

                その後のカインとその子孫の様子

5-9節 「あなたの弟アベルは、どこにいるのか  

 

Cain spoke to Abel his brother. And when they were in the field, Cain rose up against his brother Abel and killed him.

Then the LORD said to Cain, "Where is Abel your brother?" He said, "I do not know; am I my brother's keeper?"
 

 

 

「なぜ、あなたは憤っているのか。なぜ、顔を伏せているのか」(6節)

神は、かつてアダムに対して「あなたはどこにいるのか」と聞いたように、カインに対しても「何故怒っているのか」と問いかけています。

 

「罪が戸口で待ち伏せしている」「あなたは、それを治めるべき」(7節)

罪の衝動・誘惑がつきまとう様を表現しています。それを、治めなければならない、と神は語りますが、カインは、その神の問いかけに答えず、無視するかたちで行動に出てしまいますアベルに対するねたみからの怒りを、彼は治めることが出来ず、カインは、アベルを野に誘い、そこで殺してしまいます。

 

その後、神は、カインに、アベルの所在を訪ねます(9節)。カインは、自分は弟の番人なのか、と答え、知らないと嘘をつきます。

 

神にとって、アダムとエバが罪を犯したこと、そして彼らが隠れたときに、どこにいるのかもわかっていたはずです。しかし、神は彼らに対して「どこにいるのか」と、彼らに悔い改める機会を与えておられます。しかし、アダムとエバも、カインもその機会を逃し、返ってそれをはねつけています。

10-12節 さばきの宣告 

 

you are cursed from the ground, which has opened its mouth to receive your brother's blood from your hand. 

When you work the ground, it shall no longer yield to you its strength. You shall be a fugitive and a wanderer on the earth.  (Gen 4:11-12)

 

 

神のさばきの宣言(10節~)

神は明確に、カインの罪を指摘しますカインは自分の罪を隠そうとしましたが、アベルの血が、神に向かって叫んでいるというほど、その罪は神の前に明確で、その罪に対する神の怒りをも表しています。

 

直訳「あなたは、土地から呪われた」(11節) カインが耕しても、土地は産物を、もはやカインのために結ばないようになったことを示しています。こののろわれた土地の中で、放浪者になる、と神はカインに告げています。

 

カインの応答(13、14節) アダムとは違い、カインは自分の罪の報いに対し、悲しみを表現しています。

 

「咎」:多くの英語訳はpunishmentと訳しています。

カインの「咎」は、

① 土地から追い出される(両親との断絶)。

② 神の顔から隠れる(神との断絶)。

③ 放浪者となる。

④ 自分と合う者は、自分を殺す(殺される)、というものでした。

 

カインは罪を指摘され、その報いの大きさを知りますが、それでもアベルを殺したことを悔いるわけでなく、神の前に赦しを請うことをせずに、ただ自分に課せられた報いの大きさを嘆くだけでした。

15、16節 カインのしるし

 

 

the LORD said to him, "Not so! If anyone kills Cain, vengeance shall be taken on him sevenfold." And the LORD put a mark on Cain, lest any who found him should attack him. (Gen 4:15)

 

 

 神は、カインが殺されることのないように、カインに一つのしるしを与えました。それがどのようなしるしであったのか、わかりませんが、そのしるしによって彼は復讐を受けず、殺されることがない、というしるしでした。悔い改めることをしなかったカインにさえ、神はあわれみを示されました。

 カインは主の前から去り、エデンの東、ノデの地に住んだ、とあります。ノデ、というのは、12節、14節にも出てくる、「さすらう」「放浪者」という意味のことばです。ノデの地に住んだので、放浪者になっていないようですが、親と神から断絶したという意味でカインは放浪者になっています。

17-24節 カインの系図 

 

If Cain's revenge is sevenfold, then Lamech's is seventy-sevenfold. (Gen 4:24) 

 

カイン

| → エノク

妻    | → イラデ

          妻         | → メフヤエル                  妻(アダ)

                      妻          | → メトシャエル   | → ヤバル/ユバル

                                   妻           | → レメク

                                                 妻         | → トバル・カイン/ナアマ

                                                            妻(ツィラ)

 

古代オリエント神話・ギリシア神話などは、鉄や楽器を発明したのは、神々ですが(ウガリッドの神 Koshar:鉄の発明、キプロスの神Cinyras:琴の発明、ギリシアの神 Pan:フルート)、このような神話と、聖書は一線を画しています。

 

「町」(17節):規模の大小は分かりませんが、壁で防御された区域を示しています。 町は人々に文明と保護を与え、その絶頂が創世記11章4節のバベルの塔建設にあらわれています。ここでの町の建設、文明の発達は、神の栄光のためにではなく、神の助け無しに、いかに自分たちを守るか、又、神から離れ、いかに楽しむか、というところから出発しています。神を失った人々、失われた人々が、文明と暴力を発達させていく様子が、このカインの系図に描かれています。

 

カインの子エノクは、セツの子孫エノクと同じ名前です。エノクは「献げる」という意味です。カインの子エノクは、町のため、人のために献げる人生を送り、セツの子孫エノクは神に献げる歩みをしました。

 

アダムから数えて、カインの系譜7代目は神から最も離れたレメクでした。それに対して、セツの系譜7代目は、神とともに歩んだエノクです。

レメクは自分の死を恐れて、自分を傷つける者には77倍の復讐をする、と語りましたが、死をまぬがれることは出来ず、神と共に歩んだエノクは死を見ることがありませんでした。

 

レメクは2章24節の神の定めを越えて、はじめて妻を二人持ちます。彼は自分の権力の強さを、23、24節のようにあらわしています。自分にけがを負わす者には命をもって報いること、自分にされたことへの復讐は、77倍、つまり無限の復讐をする、と語ります。暴力によって解決するカインの罪を増長させているのをここに見ることが出来ます(反対にイエスは、右のほおを打たれたら、左を向けよといい、7度の70倍、つまり無限に赦せ、と命じました(マタイ18:22))。

 

メレクの4人の子供のうち、ヤバル/ユバル/トバル・カインの三人は、ユブルという一つのヘブル語の言葉から派生しています。ユブルは「生産する、生み出す」の意味です。その中でもメレクが「トバル・カイン」と名づけたのは、彼の言葉とともに、カインの暴力的正確を受け継ぎ、またそれ以上のものとなることを示しているようです。

 

「ナアマ」何故妹の名前がここで言及されているか不明です。アダの妻の子供の名前を二人あげたので、バランスをとるためという説、又、ノアの妻となったという、いくつかのユダヤの伝承もあります。

 

<25~26節 神の子孫>

 

「セツ」:「ゆるされた」の意味。エバははじめの子供を自分が得た(カイン)と名づけたが、今回は神のゆるしによって与えられたもの、と告白しています。

「エノシュ」:神から離れた死ぬべき存在としての「弱い人間」を示す言葉です(詩篇103:15)。カインの系譜とは反対に、人間の弱さを自覚し、神の助けを必要としたことを示しています。そして、人の強さを誇るのではなく、神に祈ることを覚えました。23節のレメクの言葉と対照的です。